「崩れないこと」より、「戻れること」
私たちはつい、「毎日安定して通えること」「休まず続けられること」を良い状態だと考えがちです。もちろん、それは大切なことです。けれど、人は機械ではありません。体調や気分は日によって変わりますし、季節や環境、人間関係の影響を受けることもあります。特に新しい環境に入った直後は、緊張や疲れが少し遅れて出てくることも少なくありません。
そのため、ずっと同じペースで頑張り続けることは、誰にとっても簡単ではありません。まして、精神障害や発達障害がある方にとっては、就労継続の中で波があることは決して珍しいことではないのです。
調子を崩すことは「失敗」ではない
支援の現場では、「また休んでしまいました」「最近、通えなくなってしまいました」という相談を受けることがあります。そう話される方の多くは、どこか申し訳なさそうです。まるで、休んだことや止まってしまったこと自体が失敗であるかのように感じておられるのです。
しかし、本当に大切なのは「一度も崩れないこと」なのでしょうか。私たちは、そうは考えていません。大切なのは、崩れた時にどうするかです。
就労移行支援を利用している方でも、途中で休む時期があることはあります。発達障害で仕事を続ける中で休職を考える場面や、メンタル不調で仕事が続かないと感じる時期が出てくることもあります。そうした時に必要なのは、自分を責めることではなく、今の状態を整理し、次につながる方法を見つけることです。
「休まない工夫」だけでなく「戻りやすさ」を考える
たとえば転んだ時、本当に大切なのは「二度と転ばないこと」だけではありません。立ち上がる方法を知っていること、必要な時に助けを求められること、そして安心して戻れる場所があることも同じくらい重要です。
就労支援でも同じです。支援の中では、「どうしたら休まないで済むか」だけを考えるのではなく、もし休んだ時にどう戻りやすくするかを一緒に考えることが欠かせません。
たとえば、次のような視点が役立ちます。
- 調子を崩した時の対処をあらかじめ整理しておく
- しんどい時に誰へ連絡するか決めておく
- 通所回数や活動量を一時的に調整する
- 目標を細かく見直して負担を減らす
- 「完全に元気になるまで頑張らない」と決めておく
こうした準備があるだけでも、崩れた後の再スタートはぐっとしやすくなります。
対話が、リカバリーの土台になる
精神障害のリカバリーにおいて重要なのは、「ひとりで抱え込まないこと」です。調子が悪い時ほど、人は周囲との関わりを断ちたくなることがあります。ですが、本当に苦しくなるのは、不調そのものよりも、誰にも相談できず孤立してしまうことです。
だからこそ、支援では対話を大切にしています。今どんなことが起きているのか。何が負担になっているのか。何ならできそうなのか。正解を急いで探すのではなく、一緒に状況を整理していくことが、回復への第一歩になります。
就労定着支援でも、この「つながり続けること」はとても大切です。就職した後も、環境の変化やストレスで不調になることはあります。そんな時、支援につながる先があることで、「また相談していい」「再挑戦してもいい」と思いやすくなります。
「続ける力」だけでなく「戻る力」を育てる
社会ではどうしても、「続けること」に価値が置かれがちです。もちろん、継続できることは素晴らしいことです。けれど、人生には思い通りにいかない時期があります。体調を崩すこともあれば、環境が合わないこともあります。
そうした時に必要なのは、「絶対に止まらないこと」ではなく、止まってもまた動き出せることではないでしょうか。
再挑戦の就職を目指す方にとっても、必要なのは完璧さではありません。少し休んでも、また支援につながること。孤立しない支援の中で、自分のペースを取り戻していくこと。その積み重ねが、結果として長い目で見た就労継続につながっていきます。
ひとりで抱え込まず、つながり続けるために
私たちは、「崩れない人」を目指すのではなく、崩れてもまた戻ってこられる人を支える存在でありたいと思っています。困った時に安心して相談できること、止まった時にも関係が切れないこと、それが支援の土台です。
もし今、少し立ち止まっているとしても、焦らなくて大丈夫です。大切なのは、止まらないことではなく、孤立しないこと。ひとりで抱え込まず、必要な支援につながることが、次の一歩をつくっていきます。