働ける人を探す採用の限界――職場づくりという新しい視点
障害者雇用率2.7%時代を迎え、企業の採用活動はこれまで以上に大きな転換点に立っています。これまで障害者雇用では、「まず採用すること」が重視されがちでした。しかし今、企業に求められているのは、採用して終わりではなく、長く働き続けられる環境をどう育てるかという視点です。
特に、精神疾患や発達障害のある方と共に働く場面が増える中で、重要性を増しているのが「対話」と「関係づくり」です。障害者雇用の採用を考えるうえでは、本人の能力だけを見るのではなく、職場側の受け入れ体制や支え方にも目を向ける必要があります。
「働ける人」を探したくなるのは自然なこと
企業が採用活動で、
- できるだけ長く働いてほしい
- 安定して勤務できる人を採用したい
- できれば早く仕事を覚えてほしい
- 大きな配慮がなくても働ける人に来てほしい
と考えるのは、決して不自然なことではありません。これは障害者雇用に限らず、一般採用でも同じです。
限られた人員で業務を回している現場ほど、「なるべく負担の少ない採用をしたい」と考えるのは当然でしょう。だからこそ、障害者雇用 採用の場面でも「働ける人を見極めたい」という発想が生まれます。
しかし、「条件に合う人探し」だけでは進まない
一方で、障害者雇用率の引き上げや採用対象の多様化が進む現在、「条件に合う人だけを探す」考え方だけでは難しくなっています。
精神障害や発達障害のある方は、体調の波、感覚の特性、コミュニケーションの得意不得意、集中しやすい環境などが一人ひとり異なります。そのため、採用時点で完璧に条件を満たす人材を探そうとすると、採用そのものが進まなくなることもあります。
また、採用面接の時点では安定して見えていたとしても、実際に働き始めると環境の変化や人間関係、業務の進め方によって困りごとが表面化することも珍しくありません。つまり、「働ける人かどうか」を見極めるだけでは、長く働き続けられるかどうかは分からないのです。
これから問われるのは「職場の力」
近年の障害者雇用では、「本人に何ができるか」だけでなく、職場がどのように支えられるかがより重要になっています。
たとえば、次のような点は、障害者雇用 職場環境を考えるうえで非常に大切です。
- 相談しやすい雰囲気があるか
- 業務の指示が分かりやすく整理されているか
- 体調や特性に応じて進め方を調整できるか
- 困ったときに早めに声を掛け合えるか
- 上司だけでなく、チーム全体で支えられるか
こうした土台がある職場では、本人も安心して力を発揮しやすくなります。反対に、どれほど能力が高い人であっても、相談できない、配慮を伝えにくい、失敗を共有しづらい職場では、本来の力を発揮しにくくなります。
採用は「企業が選ぶこと」だけではない
採用というと、企業が応募者を選ぶことだと考えられがちです。しかし実際には、応募する側もまた、「この職場なら働き続けられそうか」を見ています。
つまり採用とは、企業と応募者が互いに選び合うプロセスです。そのため企業には、「どのような人を採用するか」だけでなく、「どのような職場をつくるか」という視点が欠かせません。
障害者雇用の採用を成功させるためには、求人票の条件や面接での見極めだけでなく、入社後に安心して働ける仕組みや関係性を整えることが重要です。それは結果的に、定着率の向上や現場の安定にもつながっていきます。
合理的配慮は「特別な対応」ではなく、働き続けるための工夫
障害者雇用 合理的配慮という言葉に対して、「何か特別なことをしなければならない」と感じる企業も少なくありません。しかし実際には、合理的配慮は大がかりな制度変更だけを指すものではありません。
たとえば、
- 指示を口頭だけでなく文書でも伝える
- 定期的に面談の時間を設ける
- 業務量を段階的に調整する
- 相談先を明確にしておく
- 苦手な作業と得意な作業を整理して配置する
といった工夫も、立派な合理的配慮の一つです。大切なのは、「何をしてあげるか」ではなく、「どうすればその人が力を発揮しやすくなるか」を一緒に考えることです。
環境は、対話を重ねながら育っていく
もちろん、最初から理想的な職場環境をつくることは簡単ではありません。障害のある方も企業も、実際に働き始めてから初めて気づくことがあります。
だからこそ必要なのは、一度決めたやり方にこだわることではなく、働きながら対話を重ね、少しずつ調整していく姿勢です。完璧な採用を目指すよりも、継続的に関わりながら職場を整えていくことが、これからの障害者雇用ではより重要になります。
障害者雇用率2.7%時代に求められるのは、「働ける人」を探し続けることではありません。一人ひとりが働き続けられる環境を育てていくこと。それこそが、これからの障害者雇用の採用、職場環境、合理的配慮を考えるうえで欠かせない視点ではないでしょうか。
次回は、「働き続けられる環境」とは具体的にどのようなものか、そして合理的配慮をどのように育てていくかについて、さらに掘り下げていきます。