そもそも、「訓練」って何だろう?
10月は「訓練」について考えてみます
9月のブログでは、「就労支援は、何をもって『うまくいった』とするのか」をテーマにしました。就職できたこと。長く働き続けられたこと。毎日通えるようになったこと。できることが増えたこと。どれも一つの成果ではありますが、それだけで支援の良し悪しを決められるものではありません。そんなことを考えているうちに、もう一つ浮かんできたキーワードが「訓練」です。10月は、この言葉について少し立ち止まって考えてみたいと思います。
福祉の世界では、よく出てくる「訓練」
障害福祉の世界では、「訓練」という言葉が日常的に使われます。
- 私たちの運営する事業にも「自立訓練(生活訓練)」がある
- 就労移行支援や自立訓練は、制度上「訓練等給付」と呼ばれるサービスに位置づけられている
- ほかにも「職業訓練」「就労訓練」「コミュニケーション訓練」といった言葉を耳にする
あまりに普通に使われているので、これまで深く考えることはありませんでした。ところが、改めて「訓練って何だろう?」と問うてみると、意外と説明するのが難しい言葉だと気づきます。
「訓練」すると、何が変わるのだろう
一般に訓練というと、何かを繰り返し練習して、知識や技能、習慣などを身につけていくことをイメージします。
- スポーツなら、走る・投げる・打つ動作の反復で少しずつ上達する
- パソコンなら、何度も使ううちに操作を覚え、以前より速くできるようになる
つまり訓練には、「今はできないことが、できるようになる」という変化が想定されているように思います。では、精神疾患や発達特性のある人への支援でいう「訓練」とは、何ができるようになることなのでしょう。
働くための「訓練」とは?
就労支援では、働くために必要なこととして、いろいろなことが挙げられます。
- 生活リズムを整えること
- 決まった時間に通うこと
- 人とコミュニケーションを取ること
- 仕事の指示を理解すること
- 分からないときに質問すること
- 体調を自分で管理すること
もちろん、仕事をするうえで役に立つものばかりです。そう考えると、就労支援における訓練とは、「職場で働くために必要な力を身につけ、職場に適応できる力を高めていくこと」と言えそうです。
でも、ここで少し疑問が出てきます。精神疾患や発達特性は、何かを練習すればなくなるというものではありません。そして私たちは医療機関ではないので、病気そのものを治療することを目的としているわけでもありません。では私たちは、利用する人にどのような変化が起こることを期待して、日々関わっているのでしょう。
実は、私たちは「訓練」という言葉をほとんど使っていない
ここまで考えていて、一つ気づいたことがあります。私たちは長く就労移行支援を運営し、現在は「生活訓練」という名前の事業も運営しています。ところが、普段の利用者さんとの関わりを振り返ると、「今日は○○の訓練をしましょう」「これができるようになるために訓練しましょう」といった言葉を、ほとんど使った記憶がありません。
もちろん、何かを練習することはあります。
- 新しいことを覚えること
- 働くために必要なことを一緒に考えること
- 実際にやってみて、うまくいかなければ別の方法を試すこと
それでも、それらをまとめて「訓練」と呼ぶことには、どこかしっくりこないところがあります。なぜなのか。自分たちでも、まだきれいには説明できません。
そもそも、私たちは何を「訓練」しているのだろう
支援を利用することで、それまでできなかったことができるようになる人はいます。
- 生活のリズムが変わる人もいる
- 自分の病気や特性について理解が深まる人もいる
- 人との関わり方が変わる人もいる
- 特別な何かを身につけたとはうまく説明できないけれど、通っているうちに少しずつ元気になっていく人もいる
こうした変化を、すべて「訓練の成果」と呼んでよいのでしょうか。逆に、事業所の環境になかなか馴染めなかった人は、「訓練がうまくいかなかった」ということになるのでしょうか。考え始めると、意外と分からないことばかりです。
まとめ*10月は「訓練」をいろいろな方向から眺めます
10月のブログでは、精神疾患や発達特性のある人にとって、「訓練」とは何なのか——この素朴な疑問から、少しずつ考えていきます。すぐに答えを出すのではなく、普段当たり前に使っている「訓練」という言葉を、一度いろいろな方向から眺めてみます。その先に、私たちが日々行っている「支援」とは何なのかも、少し見えてくるかもしれません。