就職するために、何を「できるように」するの?

「働くために必要な力」を考えてみる

前回は、「そもそも訓練って何だろう?」というところから、10月の話を始めました。訓練という言葉には、何かを練習したり経験したりすることで、「今はできないことが、できるようになる」という変化が想定されていると考えられます。では、就労支援では何を「できるようになること」が期待されているのでしょうか。今回は、普段「働くために必要」と言われていることを、一度並べてみたいと思います。

働くために必要とされることは、たくさんある

就職に向けた準備というと、いろいろなことが挙げられます。たとえば、

  • 朝、決まった時間に起きる
  • 決まった曜日、時間に通う
  • 遅刻や欠席をするときには連絡する
  • 一定の時間、作業に取り組む
  • 指示を聞いて仕事を進める
  • 分からないことを質問する
  • 終わったら報告する
  • 周囲の人とコミュニケーションを取る
  • パソコンなど仕事に必要な技能を身につける
  • 疲れや体調の変化に気づく
  • 必要なときには休憩を取る
  • 困ったときに相談する

こうして並べてみると、ずいぶんたくさんあります。就労支援では、こうしたことを少しずつ経験しながら、働くための準備をしていくことがあります。

パソコン操作のように、練習することで分かりやすく上達するものもあります。一方で、生活リズムやコミュニケーション、体調管理などは、パソコン操作と同じように「練習すれば上達する」と考えてよいのか、少し難しいところがあります。

「毎日通える」は、働くための力?

たとえば、決まった時間に事業所へ通うこと。就職すれば、多くの場合、決められた勤務日に職場へ行くことになります。そのため、就労支援でも「安定して通所できること」が大切だと考えられることがあります。

確かに、毎朝起きて、身支度をして、決まった時間に家を出ることは、働く生活にもつながります。では、

週5日事業所に通えるようになったら、週5日働けるようになったと言えるのでしょうか。

ここは少し考えてみる必要がありそうです。事業所へ行くことと、会社へ仕事に行くことは似ているところもありますが、同じではありません。逆に、事業所にはなかなか毎日通えなかった人が、就職すると毎日会社へ行くようになることもあります。「通える」という一つの行動だけでも、それが何を意味しているのかは意外と単純ではありません。

「コミュニケーションができる」って、どんな状態?

コミュニケーションも、働くために必要な力としてよく挙げられます。挨拶する。質問する。報告する。相手の話を聞く。自分の考えを伝える。確かに、職場では誰かとやり取りする場面があります。

でも、仕事によって必要なコミュニケーションはずいぶん違います。

  • たくさんの人と会話する仕事もあれば、決まった人とのやり取りが中心の仕事もある
  • 口頭でのやり取りが多い職場もあれば、メールやチャットを使うことが多い職場もある

「人と話すことが苦手だから、コミュニケーション能力を高める必要がある」と考えるだけではなく、その人がどんな方法ならコミュニケーションを取りやすいのかと考えることもできそうです。

「体調管理ができる」って、体調を崩さないこと?

精神疾患のある人の就労支援では、「体調管理」や「自己管理」という言葉もよく使われます。でも、人は誰でも体調を崩します。精神疾患があれば、調子の良い時期と悪い時期があることもあります。そう考えると、「体調管理ができる」というのは、ずっと調子を崩さないことではないのかもしれません。

  • 自分の調子の変化に気づく
  • 少し休む
  • 予定を調整する
  • 誰かに相談する
  • 必要なら医療機関に相談する

そうしたことも含めて、自分なりの付き合い方を見つけていくことなのかもしれません。

本当に、全部できるようになってから働くの?

こうして考えてみると、「働くために必要な力」と呼ばれているものにも、いろいろな種類があります。

  • 練習すれば身につきやすい技能もある
  • 経験することで少しずつ分かってくることもある
  • 環境や仕事が変われば、そもそも必要なくなるものもある
  • 本人ができるようになるのではなく、周囲が少し工夫することで解決することもある

だとすると、働くために必要とされていることを、全部できるようになってから就職する必要があるのでしょうか。ここが、今回考えてみたかったところです。

働く前に十分な準備をしてから仕事を始める。それも一つの方法です。一方で、実際に仕事をしてみて初めて、「これは得意だった」「ここは難しかった」「こうしてもらえると働きやすい」と分かることもあります。

「できることを増やす」だけが就職準備ではないのかもしれない

就労支援というと、「できないことをできるようにしてから就職する」というイメージを持つことがあります。もちろん、新しい知識や技能を身につけることには意味があります。でも、働くための準備は、それだけではなさそうです。

自分は何が得意なのか。何が苦手なのか。どんな環境なら力を発揮しやすいのか。困ったときには、どんな方法が使えるのか。

そうしたことを知っていくことも、働く準備の一つなのだと思います。

そしてもう一つ気になることがあります。就労支援事業所で「できるようになったこと」は、本当にそのまま職場でもできるのでしょうか。

次回予告

次回は、「事業所に毎日通えたら、会社にも毎日行ける?」というところから、事業所での経験と実際の職場との違いについて考えてみたいと思います。