ストレスに強くなる?ストレスを減らす?
「ストレスに強くなりましょう」
前回は、コミュニケーションについて考えました。本人が上手になることだけを唯一の解決方法にする必要はない。本人が少し変わる方法もあれば、相手の伝え方や環境を変える方法もあります。
今回は、就労支援でもう一つよく出てくる言葉、「ストレス」について考えてみます。
働いていると、さまざまなストレスがあります。
- 仕事が忙しい
- 思うように仕事が進まない
- 上司から注意される
- 人間関係がうまくいかない
- 急に予定が変わる
こうしたことをすべて避けながら働くのは難しいでしょう。そのため就労支援では、「ストレスへの対処方法を身につける」「ストレス耐性を高める」ことが、働くための準備として挙げられることがあります。確かに、対処できる方法が増えることは大切です。でも、ここでも少し立ち止まってみます。
ストレスに弱いのであれば、本人がストレスに強くなればよいのでしょうか。
「ストレス耐性が低い」って、どういうこと?
たとえば、職場で急に予定が変更されると、とても疲れてしまう人がいるとします。周囲から見ると、「変化に弱い」「ストレス耐性が低い」と評価されるかもしれません。
でも、もう少し詳しく見てみると、その人は予定が変わること自体が苦手なのではなく、何の説明もなく突然予定が変わることが苦手なのかもしれません。理由と次に何をすればよいのかが分かれば、それほど困らないかもしれません。
あるいは、人の話し声が多い場所で仕事をすると、数時間でぐったりしてしまう人がいるとします。これも「疲れやすい」「ストレスに弱い」と見ることができます。でも、静かな場所なら一日仕事ができるとしたら、どうでしょう。
本人の「ストレス耐性」という一つの能力だけでは、うまく説明できなくなります。
ストレスには「相手」がある
ストレスは、何もないところから突然生まれるわけではありません。
- 仕事量
- 仕事内容
- 音や光
- 人間関係
- 時間
- 予定の変更
- 分かりにくい指示
- 自分に求められていることが分からない状態
人によって、負担になるものは違います。同じ職場でも、にぎやかな環境が楽しい人もいれば、それだけで疲れてしまう人もいます。急な変更を面白いと感じる人もいれば、見通しが立たなくなって大きな負担を感じる人もいます。
だとすると、「この人はストレスに弱い」だけでは、まだ分からないことがたくさんあります。むしろ、「何が、その人にとってストレスになっているのだろう」と考えた方が、次にできることが見えてきそうです。
ストレスに対処する力を身につける
もちろん、本人がストレスに対処する方法を増やすことには意味があります。
- 疲れていることに早めに気づく
- 休憩を取る
- 気持ちを切り替える方法を持つ
- 困ったときに相談する
- 睡眠や生活リズムを整える
- 自分がどんな状況で調子を崩しやすいのかを知る
こうしたことを身につけることで、以前なら大きく体調を崩していた状況でも、早めに対応できるようになることがあります。
でも、方法はそれだけではありません。
本人を強くする以外にも方法がある
- 仕事量が多すぎるのであれば、仕事量を調整する
- 曖昧な指示が負担なのであれば、指示を具体的にする
- 急な予定変更が苦手なのであれば、できるだけ事前に知らせる
- 周囲の音で疲れてしまうのであれば、働く場所を工夫する
- 長時間働くことで体調を崩すのであれば、勤務時間を考える
つまり、本人がストレスに耐えられるようになる方法と、本人にかかるストレスそのものを減らす方法があります。
どちらか一方を選ばなければならないわけではありません。本人が対処できる範囲を少し広げながら、環境側でも負担を減らす。その組み合わせによって、働きやすくなる人もいるでしょう。
ある意味、「どこで働くか」が定義されることで、訓練の方向性が決まるとも考えられます。この辺りは別の機会に触れられればと思います。
「慣れるまで頑張る」は、いつまで続ける?
ここで「訓練」という言葉に戻ってみます。
仕事を始めたばかりの頃は、誰でも疲れます。最初は大変でも、経験を重ねることで慣れていくことはあります。だから、「もう少し続けてみよう」という判断が間違っているわけではありません。
一方で、続けても負担が減らないこともあります。むしろ無理を重ねることで、体調を崩してしまうこともあります。
ここでも難しい問題が出てきます。
- 経験を重ねれば慣れていく負担なのか
- 環境を変えなければ続いてしまう負担なのか
外から見ただけでは、簡単には分かりません。
そして、その違いを見極めないまま、本人に頑張ることだけを求めてしまうと、支援そのものが新しい負担になってしまう可能性もあります。
「耐えられた」ことは成功なのだろうか
もう一つ考えてみたいことがあります。
大きなストレスを感じながらも、一日仕事をやり切った。これは「できた」と評価できるでしょう。でも、家に帰ったら何もできないほど疲れてしまう。休日はほとんど寝て過ごす。毎朝、仕事に行くために大きなエネルギーを使っている。それでも休まず働いているから、「職場に適応できている」と言ってよいのでしょうか。
表面的には仕事を続けられていても、その状態を維持するために本人がどれくらいの負担を負っているのかは、外からは見えにくいものです。
「できているか」だけではなく、「どのくらいの負担で、それをできているのか」を見ることも必要なのだと思います。
まとめ:強くなることと、働きやすくすること
ストレスに対処する力を身につけることは大切です。少しずつ経験を重ねることで、以前は大きな負担だったことが、それほど負担ではなくなることもあります。だから、本人が変わることにも意味があります。
でも、働き続けるための方法は、それだけではありません。
- 本人が対処する方法を増やす
- 仕事のやり方を変える
- 周囲の伝え方を変える
- 働く時間を調整する
- 環境を変える
- 自分に合った仕事を探す
「ストレスに強い人になること」ではなく、「無理なく働き続けられる方法を探すこと」。そう考えると、「訓練」で目指すものも少し違って見えてきます。
そして、ここまで「通所」「コミュニケーション」「ストレス」と考えてきましたが、実際の支援では、もう少し説明しにくい変化が起きることがあります。特別な技術を身につけたわけでも、何かが急にできるようになったわけでもない。それでも、通っているうちに、なんだか少し元気になっていく。
次回予告
次回は、そんな変化について考えてみたいと思います。